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高血圧

心筋梗塞や脳卒中の予防に大切な高血圧治療

高血圧は痛くも痒くもないので放置しがちです。しかし、大規模臨床試験の結果では、わずか4 mmHg血圧を下げるだけで、有意に心筋梗塞や脳卒中による死亡率が減少することがわかっています。これはあくまでも、何万人という被験者の平均から統計学的に割り出された結果ですので、あまり少しの血圧の変化に神経質になる必要はありません。健康な人でも一日のうちで20~30 mmHgの血圧変動は当たり前におこります。
しかし、収縮期血圧を概ね130 mmHg以下、拡張期血圧を80 mmHg以下に保つことは脳卒中や心筋梗塞を予防するうえで非常に重要です。

「血圧のお薬は一度飲み始めるとやめることができない」という話をよく聞きます。これは正しくありません。血圧を下げるお薬には、睡眠薬や便秘薬と違って習慣性はありません。生活習慣の改善などにより、血圧は自然に下がることが期待できます。そうなれば、血圧のお薬は中止することができるのです。

日本人は高血圧になりやすい民族です

日本人は高血圧になりやすい民族です。アフリカ系アメリカ人や日本人は食塩の元であるナトリウムを体内に保持しやすい形質を獲得し、腎臓からのナトリウム排泄能が低いことが指摘されています。食塩が体内に保持されると水も一緒に貯留して血管内の血液量、つまり循環血液量が増加し、血管の壁にかかる圧力が増加する結果、高血圧になります。これは食塩感受性高血圧と呼ばれています。

血圧の原理は電気の流れと同じです。「オームの法則」つまりV(電圧)=I (電流)×R(抵抗)によって決定されます。血圧は心臓から送り出される血流量の増加もしくは血管抵抗の増加によって上昇しますが、食塩感受性高血圧は心臓から送りだされる血流量が増加するために引き起こされます。こういった食塩感受性高血圧は食塩非感受性高血圧に比して、夜間高血圧になりやすく、腎臓・心臓・脳血管障害のリスクが高いといわれています。高血圧で塩分制限が必要なのはこのためです。 食塩に対する感受性が民族によって異なる原因は諸説あります。
アフリカ系アメリカ人は、奴隷としてアフリカ大陸から過酷な環境の中を船で運ばれてきました。ナトリウムと水分を体内に貯留できる形質を持つ者だけが選択されてアメリカで生き延びていると考えられています。日本人がなぜ食塩感受性が高くなったのかはよくわかっていません。日本人の祖先は、かつて海から遠く離れ、塩分を摂取しにくい環境で暮らしていたのかも知れません。肥満は、この食塩感受性をさらに高めることが知られています。

高血圧が引き起こす心不全

心不全

血圧が高くなると、心臓は血圧に対抗して血液を全身に送り出さなければなりません。高血圧が長く続くと、慢性的な圧負荷から心筋細胞が肥大します。筋力トレーニングで負荷をかけると二の腕が太く逞しくなるのと同じです。

心筋肥大は、最初は心腔側に向かって進行し、左心室の内腔は狭くなります。この現象は求心性左室肥大と呼ばれ、これによって心臓は圧負荷に耐えています。心臓が二の腕と異なるところは、負荷をかけることによってどこまでも筋肉が逞しくならないことです。心筋細胞はある程度以上に肥大すると、細胞の内部まで十分な酸素が行き渡らなくなります。そうなると、心筋細胞は十分なエネルギーを産みだすことができず、収縮力は低下し、さらに酸素欠乏が続けば細胞は死に至ります。
心筋細胞が死滅し、その数が減少していくと、やがて求心性左室肥大が圧負荷を代償できなくなり、心臓のポンプ機能が低下して心不全に陥ります。

高血圧が引き起こす脳卒中

脳卒中

高血圧は、心筋梗塞のみならず脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血など脳卒中の原因です。
脳梗塞には動脈硬化の結果、脳の血管が閉塞して発症するアテローム性脳梗塞と、心臓の中にできた血栓が流れ出し、脳の血管に詰まって発症する心原生脳梗塞があります。
また、脳の血管は筋肉などの血管と比較して壁が薄いために血圧の上昇によって破れやすく、脳内出血やくも膜下出血を引き起こしやすいのです。

高血圧が引き起こす慢性腎臓病と腎不全

慢性腎臓病と腎不全

高血圧は腎臓の濾過装置である糸球体の濾過圧を上昇させ、慢性腎臓病を引き起こします。慢性腎臓病とは、「タンパク尿が出ているなど、腎臓の障害を示す所見がある」、あるいは「腎臓の働きが健康な人の60%以下に低下した状態が3ヶ月以上継続している」、そのどちらか、あるいは両方に該当する場合を指します。

体内の老廃物は血液によって腎臓に運ばれ、網目のような構造をもった糸球体で濾過されて、尿になって体外に出ていきます。このような腎臓の濾過機能は糸球体にかかる圧力(血圧)で調節されています。高血圧が長く続くと糸球体の細い動脈に動脈硬化が起こり、腎臓が硬く小さくなって機能低下を生じ、腎硬化症になります。また、糸球体高血圧が昇圧ホルモンであるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の働きを活発にするため、循環血液量を増やしてさらに血圧を上昇させます。このように高血圧と腎臓病は互いに悪循環を形成します。

糸球体は廃絶すると再生しないので、糸球体障害は残された糸球体への負荷をさらに強めることになります。腎硬化症が進行すると、血液を濾過して尿を作っている糸球体にも硬化が起き、タンパク尿が出るようになります。さらに腎機能が低下すると腎不全に陥ります。腎不全が悪化して尿毒症を起こすと命にかかわるので人工透析が必要になります。

心腎連関症候群は心臓と腎臓の機能が密接に関連していて、どちらか一方が悪くなると、もう一方の機能も低下する病態を指します。心不全の患者さんでは腎臓への血流が低下してレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化され、さらに心臓に負担がかかって心不全が増悪するという悪循環です。腎不全の患者さんにしばしばみられる腎性貧血は心不全にさらに拍車をかけます。このように、慢性的な高血圧を放置することによって健康寿命が大きく損なわれることを知っていただきたいと思います。

高血圧が引き起こす大動脈瘤

大動脈瘤

高血圧は動脈硬化で弱くなった動脈壁を外側に向かって膨らませ、瘤を形成します。胸部や腹部の大動脈が瘤になると大動脈瘤と呼ばれます。真性大動脈瘤は内膜、中膜、外膜という血管の三層構造を維持しているのが特徴です。ゆっくりと進行することが多いので一般的に症状はありません。
しかし、5-6cm以上に大きくなると破裂する可能性が高くなります。血圧が高ければ高いほど大動脈瘤は破裂しやすくなります。大動脈瘤は胸部大動脈が下行する曲がり角や腹部にできやすく、大動脈瘤が破裂すると激烈な痛みとともに、胸の中やお腹の中に大出血し、出血性ショックに陥ります。

大動脈瘤

高血圧によって大動脈血管壁の中膜が裂けて血流が入り込み、血管壁が膨隆する状態を大動脈解離といいます。大動脈解離は大動脈の壁が引き裂かれるために、大動脈に沿って強烈な痛みに見舞われます。解離した大動脈の偽腔(血管内の裂け目)を包んでいるのは薄い外膜のみで、極めて破裂しやすく、特に左心室から出た直後の上行大動脈に解離が発生すると心臓を包む心膜腔内に出血して心臓を圧迫し、心臓は血液を拍出できなくなります。
この状態は心タンポナーデと呼ばれ、多くの場合は即死します。運よく出血がすぐに止まり、意識もはっきりしているような場合には救命のため、緊急手術を必要とします。

高血圧の原因を調べましょう

高血圧の原因のほとんどは、もって生まれた体質に、好ましくない生活習慣が加わって発症する本態性高血圧です。
しかし、最近の研究では高血圧として治療されている患者さんの中には原因が明らかな、いわゆる二次性高血圧の患者さんが結構いらっしゃることが明らかになってきました。二次性高血圧を引き起こす病気には、レニンやアルドステロンという血圧を上げるホルモンの分泌異常や、若い女性に多い大動脈炎症候群が挙げられます。

また、腎臓の病気によって高血圧が引き起こされることもあります。こういった二次性高血圧は通常の血圧治療ではコントールが難しく、心臓や血管の病気に繋がりやすいことも知られています。
ですから、検診などで初めて高血圧を指摘された方や、これまで降圧薬を内服していても、精密検査を受けていない患者さんは、二次性高血圧のチェックを受けられることをお勧めします。もし二次性高血圧であることが明らかになれば、正しい治療によって降圧薬の服用を中止でき、心臓や脳血管の病気を未然に防ぐこともできます。

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