循環器内科~かけがえのない心臓を守りたい~

私はかけがえのない心臓を守りたいという一心で35年間、高血圧、心不全、不整脈、狭心症、心筋梗塞、大動脈瘤、末梢動脈閉塞性疾患など循環器疾患の研究と治療に携わってきました。その経験を活かし、循環器病の患者様によりよい医療を提供したいと考えています。
心臓は一生の間休みなく動き続ける超高性能ポンプです。心臓は平均寿命の間に30億回以上も収縮、弛緩運動を繰り返しています。平均的な体格の人の心臓が安静時に一回で拍出する血液の量は約80mLですから、心臓は一日で約8,000リットル、一生の間に2億リットル以上の血液を全身に送り出していることになります。この一日で8,000リットルの血液を送り出すのに必要なカロリーはご飯茶碗1杯ほどです。すなわち、約200 kcalのエネルギーで約1.5mの高さに8,000リットルの血液を汲みあげるポンプとしての役割を果たしています。これを一般的な性能のポンプで行うと約20,000 kcalという、心臓が消費する100倍ものエネルギーが必要になります。つまり、心臓のポンプとしての性能は飛びぬけて優れていることを物語っています。

心臓の筋肉へ血液を供給しているのが冠動脈です。冠動脈が狭くなって心筋に十分な血液が行き渡らない病気が狭心症、冠動脈が完全に詰まり、心筋に全く血液が供給されない病気が心筋梗塞です。狭心症や心筋梗塞の原因は動脈硬化です。動脈硬化の進展は糖尿病、脂質異常症、肥満といった生活習慣病と密接に関連しています。生活習慣病は無症状で経過する時限爆弾です。肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症は「死の四重奏」とも呼ばれ、これらの楽器が奏でる死のオーケストラは脳卒中や心筋梗塞のリスクを数十倍に高めるといわれています。
心臓突然死が増えています!
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これらの症状は狭心症のサインかも知れません。
運動は心臓突然死の最大の原因です。
安心して運動を継続するためにも、運動前に心臓をチェックしましょう。
それでは動脈硬化はどのように進んで行くのでしょうか。動脈硬化の主役は「アテローム性プラーク」と呼ばれる血管壁の中に溜まった「垢」です。「アテローム」は「粥腫」と和訳され、「粥のようなドロドロした塊」がその語源です。「プラーク」は「垢」という意味です。アテローム性プラークも水道管のさびと同じように酸化してできますが、鉄でできている水道管はさびると赤茶けた色になるのに対して、血管内にできたアテローム性プラークはコレステロールが主成分であるために黄色くなります。
アテローム性動脈硬化の引き金になっているのは血管内皮細胞に対する酸化ストレスです。体の中のすべての血管は一層の内皮細胞によって覆われています。内皮細胞は血管のやわらかさを調節するのに重要な役割を果たしています。また、内皮細胞は血管の中を流れる血液が凝固するのを防いでいます。血液は血管の中を流れている限り固まりません。これは内皮細胞が血液を固まらせない物質を放出しているからです。出血、すなわち血液が血管の外に出ると固まるのは内皮細胞の力が及ばなくなるからです。
内皮細胞の正常な働きを妨害するのは内臓脂肪細胞などから放出される炎症性サイトカインやアンジオテンシンIIなどの悪玉ホルモン、そして喫煙です。これらの悪玉ホルモンや喫煙は血管に慢性的な炎症を引き起こします。風邪を引いてのどが赤く腫れ、痛みを感じるように、痛みの神経が存在する部位では炎症を自覚できますが、血管内膜のように痛みの神経がないところでは炎症による自覚症状は出ません。血管が「沈黙の臓器」と呼ばれる所以です。
炎症性サイトカインやアンジオテンシンIIは、内皮細胞の中のNADPH酸化酵素の働きを高めて活性酸素を放出させます。NADPH酸化酵素は白血球が活性酸素で細菌を殺すために常時働いていますが、内皮細胞などでは炎症性サイトカインやアンジオテンシンIIの刺激がないと活性化されません。
NADPH酸化酵素由来の活性酸素は、内皮型一酸化窒素合成酵素を脱共役します。脱共役とは、酵素が本来強く結びついている反応とは異なった物質を作り出す化学反応です。内皮型一酸化窒素合成酵素は内皮細胞の中でL-アルギニンというアミノ酸と酸素から一酸化窒素(NO)を合成する酵素ですが、脱共役を起こすと、NOではなくスーパーオキシドという強力な活性酸素を放出します。NOは強い抗酸化作用を有し、動脈硬化の進展を抑制するフリーラジカルの気体です。したがって、NOの代わりにスーパーオキシドが産生されるのは血管にとって大きなダメージです。
内皮細胞で活性酸素が作られる場所はこれだけではありません。痛風の原因となる尿酸を生成するキサンチン酸化酵素も重要です。キサンチン酸化酵素も、喫煙や悪玉ホルモンによる内皮機能障害によって活性化され、内皮細胞から活性酸素を放出させます。メタボリックシンドロームはしばしば高尿酸血症を合併しています。高尿酸血症は、痛風以外に尿路結石、腎障害、関節炎の原因となるだけではなく、すでに血管に酸化ストレスが加わっていることを知らせるサインです。
酸化ストレスで障害された内皮細胞は、「ケモカイン」(単球などの白血球に作用し、その物質の濃度勾配の方向に白血球を遊走させる活性を持つサイトカイン)や、それらを内皮細胞に接着させる「接着因子」と呼ばれる化学物質を産生します。ケモカインによって血管内膜に集合した単球はマクロファージへと分化します。血管壁に浸潤したマクロファージも活性酸素の放出に一役買っています。
血管壁で産生された活性酸素は血管内膜に取り込まれたLDLコレステロールなどのいわゆる悪玉コレステロールを酸化して酸化LDLに変化させます。高LDLコレステロール血症が問題となるのはこの時です。
マクロファージの細胞表面にはCD36と呼ばれる酸化LDLを認識し、処理するスカベンジャー受容体があります。マクロファージはこの受容体を介して酸化LDLを飲み込み、泡沫細胞に変化します。顕微鏡で血管を見ると、蓄積した酸化LDLがマクロファージの細胞内で泡粒のように見えるので泡沫細胞と呼ばれています。泡沫細胞からは血管中膜に存在する平滑筋細胞を遊走、増殖させる血小板増殖因子などのサイトカインが放出されます。血管壁が肥厚、内腔が狭くなって血液の通りが悪くなるという変化が全身の動脈でみられ、血圧が上がってくる時期です。
泡沫細胞は、やがて酸化ストレスによって死滅します。この時の泡沫細胞の死に方が問題です。アディポネクチンという引き締まったお腹に存在する内臓脂肪から分泌される善玉ホルモンが不足して泡沫細胞が速やかに除去されないと、細胞の内容物が漏れ出して炎症を引き起こします。
酸化LDLコレステロールは、マクロファージを呼び寄せ、さらなる泡沫細胞死の増加という悪循環をもたらします。酸化LDLコレステロールを吞食した泡沫細胞の死骸が集積 してできたのが壊死中心です。これが核となってプラークは大きくなります。壊死中心には血管に生じた炎症を修復するために線維芽細胞と呼ばれる細胞も集まってきます。怪我をしたときに、傷が盛り上がってかさぶたができるのは線維芽細胞の働きです。この線維芽細胞によって壊死中心はコラーゲンと呼ばれる線維で固められます。アテローム性プラークとは壊死中心やそれを包みこむコラーゲンからなるコブです。
このアテローム性プラークがどのような経過をたどるかによって病気の運命も変わってきます。
もし血管への酸化ストレスが減少し、血管内の炎症反応が収束に向かえば、アテローム性プラークはコラーゲンが主体のいわゆる「安定プラーク」となって、労作時にのみ胸痛がおきる「労作性狭心症」となります。労作時にのみ胸痛がおきるのは、冠状動脈が狭くなって血液の通りが悪くなり、心臓に負荷が加わった時だけ心筋の酸素需要を満たすことができなくなるからです。労作性狭心症で命を落とすことはまずありません。
内皮細胞やマクロファージから活性酸素が放出され続ければ、コラーゲンでできた線維性被膜はマトリックスメタロプロテアーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素によって分解され、薄っぺらになってしまいます。これは「不安定プラーク」と呼ばれ、極めて破裂しやすい性質を持っています。薄い線維性被膜が血圧上昇などの血管に加わった物理的ストレスで破れると、壊死中心の内容物が血管内に漏れ出します。そうなると、血管の内腔に血の塊、すなわち血栓が形成され、冠状動脈は閉塞します。血栓は血液を固める働きをする血小板に赤血球などの血球成分やフィブリンなどの凝固因子がからまってできたイチゴジャムのような性状です。この状態が20分以上持続すると、酸素欠乏で死に始める心筋細胞が出て来ます。狭心症と違い、冠状動脈が閉塞すると安静にしても痛みは治まりません。
心筋梗塞で広範囲の心筋が壊死に陥ると、心臓のポンプ機能が障害されて心不全となるか、壊死に陥った心筋から異常な電流が発生して不整脈を招きます。心筋梗塞は医学が進歩した今日でさえ、10%近い死亡率をもたらす恐ろしい病気です。たとえ救命されても、心不全によって日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
コレステロール分子は、動物細胞にとって生体膜の構成成分であり、さまざまな生命現象に関わる重要な化合物です。血中のLDLコレステロールは血管内皮を通り、LDL受容体を介して血管壁の細胞内に取り込まれ、細胞膜のコレステロール供給源となっています。したがって、LDLコレステロールを下げ過ぎると血管壁が脆弱となり、高血圧を合併した高齢の方では脳出血の危険性が増加することが指摘されています。筋肉の細胞膜は弱くなり、筋肉は壊れやすくなります。また、コレステロールは免疫担当細胞の機能を高めて感染症やガンの発生予防にも重要な役割を果たしています。「コレステロールは低ければ低い方がいい」という考え方は、あくまでも動脈硬化を治そうとする立場から発信された意見です。
LDLコレステロールを悪玉に仕立て上げるのは酸化ストレスです。そう考えると、本当はLDLコレステロールを下げるよりも、メタボリックシンドロームを治したり、禁煙したりして血管に対する酸化ストレスを取り除くことの方が大事なのです。しかし、血管に対する酸化ストレスを取り除くより、LDLコレステロールを下げる方が簡単なので、コレステロール低下薬を使う治療になってしまうのです。
酸化ストレスは老化の原因として最も注目されています。当院ではこの酸化ストレスを減らして動脈硬化を予防するように最大限の努力を続けていきたいと思います。
血圧が高くなると、心臓は血圧に対抗して血液を全身に送り出さなければなりません。高血圧が長く続くと、慢性的な圧負荷から心筋細胞が肥大します。筋力トレーニングで負荷をかけると二の腕が太く逞しくなるのと同じです。心筋肥大は、最初は心腔側に向かって進行し、左心室の内腔は狭くなります。この現象は求心性左室肥大と呼ばれ、これによって心臓は圧負荷に耐えています。心臓が二の腕と異なるところは、負荷をかけることによってどこまでも筋肉が逞しくならないことです。心筋細胞はある程度以上に肥大すると、細胞の内部まで十分な酸素が行き渡らなくなります。そうなると、心筋細胞は十分なエネルギーを産みだすことができず、収縮力は低下し、さらに酸素欠乏が続けば細胞は死に至ります。心筋細胞が死滅し、その数が減少していくと、やがて求心性左室肥大が圧負荷を代償できなくなり、心臓のポンプ機能が低下して心不全に陥ります。ですから、今、症状がないからといって高血圧を放置せず、正しく治療することが大切です。
脳梗塞の約40%は心臓が原因、すなわち心原性といわれています。心原性脳梗塞の原因の大部分は心房細動です。心房細動とは、心室の上にある血液の貯蔵庫、心房が小刻みに震える不整脈です。心室細動と異なるところは、心室細動では心臓のポンプ機能が消失するために、全く血液が全身に拍出されませんが、リザ―バ―である心房が動かなくなっても心臓のポンプ機能にはほとんど影響がないことです。そのために心房細動があっても自覚せず暮らしておられる患者様がたくさんおられます。心房細動の有病率は男女とも年齢とともに増加し、一時的な心房細動、すなわち発作性心房細動を含めると65歳以上の約5%、80歳以上の10%以上に心房細動が認められるといわれています。
心房細動の恐ろしいところは知らぬ間に左心房の中に血栓が形成され、それが何の前触れもなく左心室から大動脈を経て脳の血管に飛び、脳梗塞を発症することです。心原性脳梗塞は、脳内血管の動脈硬化が原因で発症するアテローム性脳梗塞より症状が重症で、手足のマヒの合併も多く、一命を取り留めても7割以上の方は完全な社会復帰が困難です。
発作性心房細動は一時的な心房細動であり、病院に来られて心電図検査を行っただけでは発見されないことも多いのが問題です。発作性心房細動を見逃すことは大変危険です。それは、発作性であっても数時間以上持続する場合には左房内に血栓が形成される可能性があるからです。ですから、動悸を自覚されて発作性心房細動が疑われる患者様には24時間心電図などで心房細動の有無を綿密に調べる必要があります。
心房細動をお薬で完全に予防することはできません。また、電気ショックで一時的に心房細動を治しても再発することが多いです。ですから、心原性脳梗塞を予防する最も有効な手段は血液を固まりにくくする、いわゆる抗凝固療法です。心原性脳梗塞を発症する危険因子には心不全 (1点)、高血圧 (1点)、高齢 (75歳以上1点)、糖尿病 (1点)、過去の脳卒中の既往 (2点)が挙げられ、これらの危険因子をどれだけ有しているかによって、心原性脳梗塞発症の危険度が分類されています。0-1点は低リスクで、年間の心原性脳梗塞発症リスクは3%未満、2点が中等度リスクで、年間の心原性脳梗塞発症リスクは約4%、3点以上が高リスクで、年間の心原性脳梗塞発症リスクは6%-20%に跳ね上がります。2点以上が日本循環器学会のガイドラインで定める抗凝固療法の適応になります。抗凝固療法の適応は、大規模臨床試験の結果にもとづいて出血のリスクと心原性脳梗塞発症のリスクを天秤にかけた結果、導き出されたものです。抗凝固療法によって心原性脳梗塞の発症は約70%低下しますが、脳出血や消化管出血などの生命にかかわる出血の頻度は増加します。心房細動の患者様に対してどのような抗凝固薬を選択するのかは、患者様の生活習慣、体質、合併する病気によって異なってきます。当院では患者さんに抗凝固療法を行うことのリスクとベネフィット(利益)を十分に理解していただいたうえで治療を行っています。

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